海外贈賄有事対応ガイダンス
ABCJは、2024年10月、[海外贈賄有事対応ガイダンス」を策定・公表しました。
海外贈賄問題が日本企業にとって企業価値の毀損に直結する重大なリスクとなっていることを背景として,2015年に経済産業省の外国公務員贈賄防止指針(以下「経産省指針」という。)が改訂され, 2016年には経産省指針を補完する形で、日本弁護士連合会が海外贈賄防止ガイダンス(手引)(以下「日弁連ガイダンス」という。)を公表し、ABCJメンバーもこの策定に関与しました。
海外贈賄が行われた場合の基本的な有事対応については、日弁連ガイダンス第12条に言及されていますが、企業の有事対応の実務は年々進展しています。
2018年6月には、刑事訴訟法の改正により「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」(以下「合意制度」という。)が新設され、三菱日立パワーシステムズのタイ国における外国公務員贈賄事件が第一号適用事件となりました。日本版司法取引とも呼ばれる合意制度を海外贈賄における有事対応の一環として活用することは、企業にとって事後的な刑事処分リスク及びレピュテーションリスクの軽減策として十分検討に値するものです。
さらに、2024年4月には、外国公務員贈賄罪の強化・拡充(法定刑の引上げ、処罰範囲の拡大)を盛り込んだ改正不正競争防止法が施行され、企業にとっての海外贈賄リスクは増大傾向にあります。同年2月には、この改正に合わせて経産省指針も改訂されています。
こうした状況変化に対応するため、ABCJは、日弁連ガイダンス第12条をベースとして、最新の実務動向を踏まえて、合意制度の活用までを視野に入れた海外贈賄の有事対応を具体的に示すことを目的として、本ガイダンスを公表したものです。
海外贈賄有事対応ガイダンス
MAPPING
本ガイダンスの位置づけ
本ガイダンスは、経産省指針を補完する日弁連ガイダンス第12条の有事対応に関する規定の内容を、最新の実務動向を踏まえて、合意制度の活用までを視野に入れて具体化したものです。
より詳細な実務対応に関しては、ABCJ「海外贈賄危機管理の実務」(2022年 中央経済社)が、3つのケーススタディをとおして、企業のとるべき対応を検討していますので、同書もご参照ください。
OVERVIEW
本ガイダンスの主要目次
Ⅰ 本ガイダンスの目的
Ⅱ 海外贈賄における有事対応の基本スタンス
1 外国公務員贈賄罪は企業自身の犯罪であることを自覚する
2 合意制度を正確に理解し積極活用を検討する
3 平時からの防止対策を励行する
4 刑事弁護活動にコンプライアンス推進の視点を取り込む
5 ステークホルダー目線からコーポレート・ガバナンスを効かせる
Ⅲ 海外贈賄の端緒を把握した企業の有事対応
1 更なる供与又は約束を防止するための現場における対応
2 自らに不利な事情も含め,証拠の保全を図るために必要な措置
3 担当役員の決定,調査チームの設置等の手順
4 担当役員,調査チームの権限明記
5 調査範囲(調査スコープ)の設定と拡大
6 調査結果(途中経過も含む)の迅速かつ適時の本社(親会社)への情報伝達、事案の重大性に応じた本社(親会社)の社外取締役,監査役(社外監査役を含む)への適時の報告
7 第三者委員会の設置及び対外公表についての検討
8 調査の結果,贈賄行為の可能性が高いと判断される場合は,捜査機関への通報や自首,開発協力事業に関し ては外務省及びJICAに設置された不正腐敗情報相談窓口への相談等の検討
9 調査により判明した事実に基づく,原因究明,再発防止策の策定及び関係者の処分
Ⅳ 海外贈賄における合意制度の活用
1 合意制度について
2 企業の対応
3 担当弁護人の対応
4 担当弁護人と検察官との交渉
Ⅴ 海外当局・公共調達への影響に対する対応
1 海外当局の対応
2 証拠の保全
3 弁護士依頼者間秘匿特権に基づく保護の確保
4 公共調達への影響に対する対応